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フォレックス・ディーラー物語
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Forex Dealer Stories
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大蔵大臣 No.2
The Finance Minister
Since 2002/July/15
アクセスカウンター FM002

 鈴木さんとの電話を切ってから、説明するために田辺課長の席に行った。

 田辺課長のディーリング・ボードは大きな窓を背にしている。

 その大きな窓の足元に沿って40センチくらいの幅でクリーム色にペイントされた鉄の段がある。その上にはエア・コンの送風口が並んでいる。ニューヨークの高層ビルはビル全体で空調を管理している。暑いときはこの上に座ると背中にひんやりとした風が当たって気持ちがいい。

 田辺課長はその段の上で仰向けに寝転がっていた。

 「田辺課長・・・・・。 お休みのところ申し訳ありませんが・・・・・。」

 「んん、なんだ?」

 田辺課長がエア・コンの送風口にのったまま上体を起こした。

 「先程の、来週の火曜日のことなんですが・・・・・。」

 「ああ、友達か誰かくるんだろ?」

 「いえ、友達じゃなくて、大蔵大臣が来るんです。」

 「へー。 梅田は大蔵大臣と知り合いなの?
 なんだ、じゃあ俺にも紹介しろよ。」

 「いや、別に知り合いじゃあないし、ぼくも初めてお会いするんですけど・・・・・。」

 「ふーん。」

 「松下大蔵大臣が、コロンビア大学から名誉博士号を貰うんだそうです。
 それで、大蔵大臣を囲んで、早稲田の同窓会を開くんだそうです。」

 「そっか。 梅田は早稲田だったな。 松下大蔵大臣も早稲田なんだ。」

 「はぁ・・・・・。 ぼくもさっき知ったんですけどね。」

 「ハハハ・・・・・。 そっか。
 でも、この時期にこっちに来るのって、何かあるのかもしれないね・・・・・。

 まあ、いいチャンスじゃないか。
 直接話す機会があれば、為替がどうなるのか聞いてみな。」

 「いやぁ・・・・・。
 直接お話できるのか、どれくらいの人数なのかも、全くわからないんですよ。」

 「どこでやるの?」

 「『日本クラブ』だそうです。
 ぼくは中に入った事がないんですけど、ここから近かったですよね。」

 「ああ、ここからだと歩いて5分か10分くらいだよ。
 ヒルトン・ホテルの横を通って行って、次のブロックのあたりだったかな。
 カーネギー・ホールが近かったぞ。
 あそこの中は、そんなに大きくないよ。
 だから、せいぜい4〜50人じゃあないかなぁ。」


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 「じゃあ、田辺課長行ってきます。」

 「おお、大蔵大臣によろしくな。」

 「はい。」



 外に出てみると、人があふれるように歩いている。
 まだ、3時半だから日差しも明るい。

 『へー・・・・・。 ミッドタウンて、こんな時間でもこんなに人がいっぱいいるんだ・・・・・。
 みんな、何をしている人たちなんだろう?
 ここら辺はニューヨークで一番華やかなところだからなぁ。
 日本で言えば、銀座でウィンド・ショッピングみたいなもんかなぁ・・・・・。』

 早めに会社を出たから時間には余裕がある。
 平日のこんな時間にぶらぶらと散歩できるチャンスなんてめったにない。
 遠回りをして、ニューヨークの有名な店の前をわざと歩いて行くことにした。

 自分の働いているビルの周りをぐるりと一回りするだけで、「ハンティング・ワールド」、「ダンヒル」、「カルティエ」、「バーバリーズ」、「ボッティチェリ」、「バリー」、「グッチ」、「ルイ・ヴィトン」、「ティファニー」、「トランプ・タワー」とある。

カーネギー・ホール
カーネギー・ホール
Photo by“Manhattan Fire Plan”

 ぶらぶらと遠回りをしても、定刻の4時前に日本クラブに着いてしまった。

 歴史の有りそうな古い建物だ。 中に入ると、下は赤い絨毯だ。

 黒い服に蝶ネクタイの年配のおじさんが日本語で言った。

 「いらしゃいませ。」

 「早稲田大学の稲門会はこちらでよろしいんですよね?」

 「はい。 稲門会は2階でございます。
 中にクロークがございますので、そちらにお荷物をお預けになって下さい。」

 中に入って手に持っていた文庫本を預けた。

 人はぱらぱらと来る様子だ。
 4時までにはまだ少し時間がある。
 それに平日だから、皆、普通は仕事をしているところだろう。
 遅れて来る人も多いに違いない。

 2階に上がってみると、「ニューヨーク稲門会」と書いてある立て看板と受付があった。
 受付にいる30代半ばの男性が立ち上がって会釈をした。

 「こちらにお名前と会社名をご記入下さい。」

 自分の名前と丸和信託ニューヨーク支店と書いた。

 ふと、廊下の奥の方を見ると、直立不動という言葉がふさわしい格好をした、体格の良い男の人が二人、閉まった扉の前に立っている。きっとセキュリティ・ポリスなんだろう。そういえば、下にもそういった感じの人が一人二人いたように思える。

 「どうぞ、中にお入り下さい。
 バーで、お好きなものをオーダーして下さい。」

 日本クラブのボーイさんが俺に言った。

 会場の中はまだ人がまばらだ。 7〜8人しかいない。

 確かにそれ程広くない。

 大きめのテーブルが2個所に置いてあり、お飾り程度にオードブルがのっている。

 入り口は一個所だけで、その入り口を真っ直ぐに行くと部屋のコーナーにバーがある。

 俺はヴォッカ・アンド・トニックを頼んで、壁に沿って並べてある赤い椅子に腰掛けた。

 残念ながら、俺の知っている人は誰もいないようだ。

 4時を回ってからだんだんと人が増えてきた。
 4時からということだが、人の集まりが悪いので遅らして始めるのだろう。
 俺はヴォッカ・アンド・トニックをお代わりして待つことにした。




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