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「それから、新聞記者から取材したいって話しがあって、取材に応じたわけよ。」
「うん。」
「そうしたら、日経新聞の一面のコラムに面白おかしく載っちゃたんだ。」
「『ドル買い介入』のことが?」
「いや、それは出てない。
昔、ゴールドのマーケットで『ズーリックの小鬼たち』っていう話しがあっただろ。
それを捩(もじ)って『東京の小鬼たち』って題で、『ドル円相場の鍵を握る男たち』みたいなことを書いているんだ。
その記事に年金運用のファンド・マネジャー、「大竹勇治」って実名で出ちゃったんだ。
年金運用のファンド・マネジャーが、『ドルはまだ落ちます。僕はドルを売って売って、叩き落して見せます。』みたいな論調なわけよ。」
「ふーん・・・・・。
でも、間違ったことを言っているわけじゃあないよねぇ・・・・・。
合ってるんじゃない。
たぶんドル・円はまだ落ちるよ。」
「うん。内容は良いんだ。
でも、俺達は銀行に勤めてる訳だし、当然この円高で困っているお客さんもいるじゃないか。
輸出企業の顧客だっていっぱいいるしな。」
「そりゃそうだね。」
「そういった先から、クレームが付いたんだ。」
「ふーん。」
「『我々が円高で困っているのに、こんなコメントが紙面に載って、ますます円高になったらどうしてくれるんだ』みたいな話なんだよ。」
「ふーん。
ケツの穴ちっちゃいねぇ・・・・・。
誰がどこで何を言ったって、落ちるものは落ちるし、上がるものは上がるよ。
『みんな』の気持ちだからねぇ・・・・・。
『みんな』がどう考えるかだからねぇ・・・・・。」
「俺もそう思うよ・・・・・。
それで、取締役クラスに呼びつけられて、『大竹、お前、本当にこんなこと言ったのか?』って怒鳴りつけられた・・・・・。
だけど、そんな言い方するわけないじゃないか。
そりゃ、『まだ円高になるだろう』とか、『ヘッジ(Hedge)のドル売りはまだ出る』とかぐらいは言ったぜ。
だけど、新聞なんだから、そんなに面白おかしく話すはずないじゃないか・・・・・。」
「本当?
まーた、調子に乗って『大竹節』を唸ったんじゃないのぉ?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「なんだか、ばかばかしくなっちゃってなぁ・・・・・。
別に、その新聞記事だけが理由じゃないんだけど・・・・・。
巧く言えないんだけど、『じゃあ、もういいです』って感じかな。」
大竹さんがどこと無く寂しそうにそう言った。
「ところで、大竹さんは何でニューヨークに来たの?」
「いい質問だねぇ。」
「だって、まだ辞めてないんでしょ?
休暇でわざわざニューヨークってこともないだろうし・・・・・。」
「いやっ・・・・・。
一応、わざわさ休暇を取って来てるんだ。
有給なんか余ってるしなぁ・・・・・。
それに、辞めるって決めたら、会社に行ってもすることが無いんだよぉ・・・・・。
新聞を隅々まで読んだって、午前中で読み終わっちゃうしな・・・・・。
かといって、『辞めます』って言ってから、2ヶ月は辞められないんだ、規則で・・・・・。
引継ぎとかあるだろ。
部長が『休暇取ってもいいよ』って言うから、『そうですか』って取っちゃたんだ。」
「・・・・・。」
「辞めて、どうするの?
これから・・・・・?」
「わからない・・・・・。
まあ、もちろん働くよ。」
「何をするの?」
「何かあるだろう、ファンド・マネジャーでも、債券のセールスでも。
これから、ゆっくり考えるよ・・・・・。」
「いい度胸だよなぁ・・・・・。
後先考えずに辞めちゃうんだから。」
「だけど、梅田も気を付けろよ、マスコミには。」
「『口は禍の元』ってこと?」
「あまり信用するなってことさ。 お前は『お人好し』だからな。」
「・・・・・。」
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