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フォレックス・ディーラー物語
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青春のモニュメント No.11

 最初に買い始めたときが180.25 - 35のレベルだったのだから、3円買い上がったことになる。

 マーケットが薄くなってからの値動きは飛び跳ねるようだった。
 結局、今回買ったドル500本のアベレージは182.45程度であった。

 大竹さんのポジションは、持ち値181.14で1000本のドル・ロングと 持ち値182.45で500本ドル・ロングだから、


 [(181.14×1,000 + 182.45×500)÷(1,000+500 )= 181.57666 ]


 アベレージ・レート181.5767で、15 億ドルのドル・ロングということになる。


 183円台もかなり買ったが、183円台は他の銀行のディーラー達の、追随するドル買いはなく、ドル・円の気配値は自然と垂れ下がるようにゆっくりと動いた。


 183.25 - 35から182.85 - 95までゆっくりと落ちた。



 この時点で大竹さんの損益を計算すると、
ロイター画面

 [(182.85−181.5767)× 1,500,000,000 = +1,909,950,000 ]


 約19億1000万円のプロフィット(利益)になる。

 しかし、15 億ドルをいっぺんに182.85で売れるはずがない。

 我々が15億ドルを買って、ドルは3円上昇したのだ。
 今から、我々が15億ドル売ったら3円の下落で済むだろうか・・・・・。

 何はともあれ、俺は大竹さんに電話をした。

 「もしも、大竹です。」

 「もしもし、梅田です。
 500本買いました。
 アベレージは182.45です。
 高値が183.25 - 35 。
 現在のレベルが182.85 - 95です。
 大竹さんのポジションは全部で15億ドルのドル・ロング
 全体のアベレージは181.58アラウンドです。」

 伝えるべきことを一気に言った。

 「そぉーか。
 ようやっと、日の目を見たかなぁ・・・・・。」

 「うーん・・・・・。
 だけど、ここから1500本売ったら、181.58のアベレージよりも高く売れるとは思えないよ・・・・・。」

 「そーだなぁ・・・・・。
 こんだけ買った割には、上がらないねぇ・・・・・。」

 さっき電話したときよりは声が落ち着いている。
 ポジションフェイバー(Favor)になると、誰でもそういうものだ。

 ちょっと一息ついた途端に、また、スーザンが叫んだ。

 「エイティ・ギブン! エイティ・オファー!」
 (80 Given! 80 Offer!)

 急に他のブローカー達も声を張り上げ出した。

 「セブンティ - エイティ!」
 (70 - 80!)

 「セブンティ - エイティ!」
 (70 - 80!)

 「セブンティ - エイティ!」
 (70 - 80!)
ロイター画面


 エイドリアンが気を利かせてラッサー・マーシャルのスーザンをダイレクト・ライン(直通の電話、Direct Line)で呼び出している。
 誰が売っているのかを聞こうとしているのだ。


Line


 外国為替の取引については、「守秘義務」というルールがあって、ブローカーは、誰が売っているとか、誰が買っているというようなことを他に漏らしてはいけない。

 銀行のディーラーにとっても、このルールは当てはまる。

 さらに、銀行には外国為替取引の顧客があって、その顧客の依頼に基づいて売買を行うことも多い。 銀行のディーラーにとっての「守秘義務」は、当然、顧客取引も含まれる。

 だから、エイドリアンは、誰が売ってるのかを、こっそりと教えてもらいたかったのだ。

 外国為替ディーリングは、通常「ボイス・ボックス (Voice Box)」を使って行われる。 ディーラーのいるディーリング・ルームブローカーのいるディーリング・ルームの双方にスピーカーが設置してある。

 ディーラーの声はブローカー側に設置してあるスピーカーを通して、ブローカー全員に聞こえる。 同じようにブローカーの声は、銀行のディーリング・ルームの全員に聞こえるようになっている。

 ボイス・ボックスを通しての会話は周りにいる人に筒抜けになるので、銀行とブローカーはオープン・スピーカーの電話の他に、普通に話すための直通の電話回線を設けている。

 これがダイレクト・ライン(Direct Line)だ。

 いちいち電話番号を押しているのは時間の無駄だし、緊急を要するときには、ほんの数秒で取引が間に合わないケースもある。
 相場の状況によっては一日の間に何十回、何百回も会話をするので、この回線は銀行とブローカー間で直結している。
 ディーリング・ボードのボタンを押せばすぐにつながる。

 通常は、この直通電話回線(ダイレクト・ライン)取引の確認(コンファーム Confirm)などをしている。


Line


 エイドリアンが叫んだ。
 「バンカース セリング ダラー・イェン!」
 (Bankers Selling Dollar/Yen!)

 バンカース・トラスト・ニューヨークがドル・円を売っている。

 バンカース・トラストはアメリカの信託銀行なのだが、外国為替取引や金融市場取引を大胆に行うことで、有名な銀行だ。

 はっきり言えば為替市場では最も投機的な米系銀行だ。

 我々が買い終って、大竹さんに電話をしている最中に、いつもドル・円が売り込まれる。
 バンカースはドル・円のレートを押し下げたいに違いない。


 俺は大竹さんに言った。

 「バンカースが売ってるよ。 182.70 - 80 になった。」

 「そっか・・・・・。 売りも出てくるねえ・・・・・。」


 ブローカー達が、さらに声を張り上げた。
 「フィフティ・オファー!」
 (50 Offer!)

 「フィフティ・オファー!」
 (50 Offer!)

 「フィフティ・オファー! ノー・ビッド!」
 (50 Offer! No Bid!)

 「フォティ・オファー!」
 (40 Offer!)

 「サーティ・オファー!」
 (30 Offer!)

 「トゥウェニィ・オファー!」
 (20 Offer!)

 「フィギュア・ギブン!」
 (00 Given!)
ロイター画面

 あっという間に182.00まで売り込まれた。

 この動きを大竹さんに伝えた。

 「ふう・・・・・。
 182.70 - 80から182.00まで売り込まれた。
 たぶん、またバンカースだよ。
 182円台は、さっき俺たちが買ったときもマーケットは薄かったからね・・・・・。
 上がるのも速かったけど、下がるのも速いや・・・・・。」

 「うーん・・・・・。」

 さらにブローカー達の叫び声が続いた。

 「ナインティ・ギブン! ナインティ・オファー!」
 (90 Given! 90 Offer!)

 「エイティ・ギブン! エイティ・オファー!」
 (80 Given! 80 Offer!)

 「セブンティ・ギブン! セブンティ・オファー!」
 (70 Given! 70 Offer!)

 「シックスティ・ギブン! シックスティ・オファー!」
 (60 Given! 60 Offer!)

 「フィフティ - シックスティ!」
 (50 - 60!)

 「フィフティ - シックスティ!」
 (50 - 60!)

 「フィフティ - シックスティ!」
 (50 - 60!)

ロイター画面
 181.50 - 60まで落ちた・・・・・。

 俺は一瞬、声を失った・・・・・。



 「もしも・・・・・?。 梅田? どうした?」

 大竹さんの声がした。

 「あっ・・・・・。
 181円のゴマル・ロクマル(181.50 - 60)まで落ちた・・・・・。」

 「・・・・・。 そっか・・・・・。
 売りもすごいなぁ・・・・・。」

 「大竹さんの持ち値だよ、今が・・・・・。」

 「そうだなぁ・・・・・。」

 15億ドルのポジションになると、損益のぶれが大きい。

 182.85 - 95ならば、約19億1000万の利益だが、181.50 - 60だと、約1億1500万円の損失になる。


 [(182.85−181.5767)× 1,500,000,000 = +1,909,950,000 ]


 [(181.50−181.5767)× 1,500,000,000 = −115,050,000 ]



 ついでに、俺のポジションも計算すると、ドル・円が182.85 - 95ならば、約1億5000万円の利益になるが、181.50 - 60だと、約2000万円の利益に縮まってしまう。


 [(182.85−181.285)× 96,000,000 = +150,240,000 ]


 [(181.50−181.285)× 96,000,000 = +20,640,000 ]


 大竹さんに電話を架け始めたときは、182.85 - 95だったのだから、この電話をしている間に1円35銭落ちたことになる。

 今から15億ドル売ったらマーケットは確実に崩れる。

 181.50で15億ドル売れるはずがないから、大竹さんの負けは1億円程度では済まない。
 181.50 - 60の水準から15億ドルを売れば、大竹さんの持ち値181.5767から2円以上はやられるだろう。

 そうなれば、30億円以上の損失になる。



 大竹さんの声が聞こえた。

 「梅田・・・・・。 青春のモニュメントだなぁ・・・・・。
 『介入』って難しいなぁ・・・・・。」

 俺はちょっとむっとして答えた。

 「だから言ったじゃない。
 ばかなことはやめようって・・・・・。」

 「うん・・・・・。」

 「まずいんでしょう・・・・・。」

 「うん・・・・・。
 ちょっとまずいなぁ・・・・・。」

 俺は暗に権限オーバーを指摘した。

 「梅田、負けたよ・・・・・。
 この勝負は・・・・・。」

 急に大竹さんが弱気になった。



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