俺は慌てずに間を置いた。
181.70は、ラッサーのスーザンのところでは、5本全部買えてしまったが、タレットの高井さんのところには、まだ、俺の3本の買い(ビッド Bid)が入っている。
タレットの181.70のビッドを、誰も売ってこないということをみんなに知らしめる時間だけ、間を置いたのだ。
高井さんやタレットのブローカー達は、それぞれの担当の銀行に、181.70のビッドが3本あると伝えて回っているはずだ。
時間とすればほんの1〜2分のことなのだが、長く感じる。
いつのまにか、独り言を言って、自分に言い聞かせている。
「まだまだ・・・・・。 まだよ、まだよ・・・・・。
焦っちゃだめよ・・・・・。」
エイドリアンが、不思議そうに、
「ワット?」
(What?)
と英語で俺に聞いた。
「ナッシング。」
(Nothing.)
俺は首を振りながら、笑ってごまかした。
日本人の悪い癖だ、と思いながらも説明している余裕がない。
もういいだろう。 そう思って、またスーザンと高井さんのボイス・ボックスのスイッチを開いた。
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「ダラー・イェン・プリーズ?」
(Dollar Yen, please?)
スーザンが答えた。
「セブンティ - エイティ、
カップル!」
(70 - 80, Couple!)
高井さんが日本語的英語で答えた。 |
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「セブンティ - エイティ、ユア・ビッド・スリー!」
(70 - 80, Your Bid Three!)
「サンキュー!」
(Thank you!)
俺はあと三〇秒程、間を置くことにした。
スーザンの言った、『カップル』は2本ということだ。
この場合は、プライスが181.70 - 80で、買いも売りも2本ずつあるという意味になる。
俺以外の誰かのビッドが入っている。 買いが付いて来ている。
181.80は60や70よりもアマウント(Amount)があるだろう。 ドル・円の癖で、00、20、50、80は売り買いが集中する。
ラッサー・マーシャルの181.80の売りは2本しかない訳ではないだろう。
「ダラー・イェン・プリーズ?」
(Dollar Yen, please?)
「セブンティ - エイティ、カップル!」
(70 - 80, Couple!)
「セブンティ - エイティ、ユア・ビッド・スリー!」
(70 - 80, Your Bid Three!)
ここまでは、さっきとまったく同じ会話だ。
でも、次の俺の答えが違った。
「テン・マイン!」
(Ten Mine!)
スーザンがすぐに返事をしないで、先に他の銀行のディーラーに、181.80が買われたとインフォーメーションを流している。
「エイティ・ぺーイド! エイティ・ぺーイド! エイティ・ぺーイド!」
(80 paid! 80 paid! 80 paid!)
今度は高井さんの声がした。
「梅田さん! ハチマル、5本 ダンです! バランス見てまーす。」
スーザンの声もした。
「ミスター・ウメダ、テン・ダン!」
(Mr. Umeda, Ten Done!)
俺はスーザンに言った。
「エイティ・ビッド・テン!」
(80 Bid Ten!)
「ファイブ・ダン!
エイティ・ビッド・ファイブ・ナウ! ギブーン!
ユー・バーイ・トータル・トェニィ!」
(Five Done!
80 Bid Five now! Given!
You buy total Twenty!)
スーザンのところで、181.80は20本買った。
やっぱり181.80には売りが待っていた。
高井さんの声もした。
「梅田さん、トータル10本ダンです!」
今のところ、181.80はトータル30本買っている。引き下がる訳にはいかない。
ラッサー・マーシャルとタレットに、
「エイティ・ビッド・テン!」
(80 Bid Ten!)
181.80に買いを10本ずつ入れた。
スーザンと高井さんが、ランニング・プライスを他の銀行に読んでいるのがうちのボイス・ボックスにも漏れて聞こえてくる。
「エイティ - ナインティ! エイティ - ナインティ! エイティ - ナインティ!」
(80 - 90! 80 - 90! 80 - 90!)
「エイティ - ナインティ! エイティ - ナインティ! エイティ - ナインティ!」
(80 - 90! 80 - 90! 80 - 90!)
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181.80を売り込まれるよりは、今、買い進んだ方がましだ・・・・・。
そう思って、構わず、スーザンと高井さんの声に割り込んだ。
「アット・ナインティ!
テン・マイン!!!」
(At 90! Ten Mine!!!)
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また、マーケットが張り詰めた。
「ナインティ・ぺイド! ナインティ・ビッド!」
(90 Paid! 90 Bid!)
「ナインティ・ぺイド! ナインティ・ビッド!」
(90 Paid! 90 Bid!)
「フィギュア・ペイド!」
(Figure Paid!)
「フィギュア・ペイド!」
(Figure Paid!)
「フィギュア・ペイド!」
(Figure Paid!)
「フィギュア・ペイド!」
(Figure Paid!)
俺が、181.90を買ったら、誰かが、182.00をまとめて買ったらしい。
俺は無駄にポジションを使いたくなかったから、182.00は買い方が買い終わるまで待つことにした。
182.00のオファーが売り残れば、その残った分だけを買えばいいし、ビッドが買い残れば、ラッキーだ。
そう思って、ちょっと待ったのだが、だんだんブローカー達の声が少なくなり、何だかプライスがぼやけてしまった。
もう、みんなやりたくないんだ。
『そりゃそうだろう。 俺だってそうだよ・・・・・。』
スーザンと高井さんのところに、俺はわざと高めのビッドを入れた。
「テン・ビッド・テン!」
(10 Bid Ten!)
ラッサー・マーシャルとタレットだけにしかプライスがない。
スーザンと高井さんの声だけが大きい。
「テン・ビッド!」
(10 Bid!)
「テン・ビッド! ノー・オファー!」
(10 Bid! No Offer!)
182.10の買いだけだ。 売りが引いた。
俺は続けて言った。
「トェニィ・ビッド・テン!」
(20 Bid Ten!)
182.20は全部で10本程度買った。
182.20 - 182.40のゾーンは薄かった。
182.50にはまとまったドル売りがあったが、それも50〜60本程度だった。
182.80も50〜60本買った。
ここまで来れば、形振り構わずに183.00を買い上げた。
183.00は100本くらいあった。
もう引くつもりはなかった。
183.20の今日の最高値近辺も20本程買った。
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