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フォレックス・ディーラー物語
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青春のモニュメント No.22

 ディーリング・ボードの短縮ダイヤルを押して、東京のディーリング・ルームを呼んだ。

 「トゥルルル・・・・・トゥルルル・・・・・ はい、丸和信託です!」

 「あぁ、もしもし、ニューヨーク支店、梅田です。
 おはようございます。」

 「あぁ、荒井です!
 おはようございます。」

 「大竹さん、売った?
 売れた?」

 「いやぁ・・・・・、とりあえずドル・円500本売りました。」

 「それで183円ゴマル(183.50)から182円チョード(182.00)まで落ちたの?」

 「はい。
 そうだと思います。」


 『やっぱり・・・・・。』


 大竹さんは、会社に着いてすぐに売り始めたようだ。

 ドルが落ちるときは速い。
 マーケットが薄い時間帯ということもあるが、500本のドル売りで1円50銭落ちている。

 ニューヨーク市場で、俺たちがドルを500本買ったときは、その都度だいたい1円の上昇だった。

 ドル・円、為替相場の癖だ。

 プライスが『ドル高円安』に動くときはゆっくりで、『ドル安円高』は速い。
 今回もその傾向は変わらない。


 「梅田さん、また、大竹さんが100本、ドルを売るようです。
 梅田さんはニューヨーク支店のディーリング・ルームに居るんですか?
 そうだったら、こちらから折り返します。
 まだ、人数が揃わなくって、ぼくもディールを手伝うんですよ。」

 「あっそうか。
 ごめん、ごめん。
 まだ、ディーリング・ルームに居るから折り返して。
 じゃあ、あとで・・・・・。」

 電話を切った。



 『そぉかぁ・・・・・。
 大竹さん、もう500本も売ったんだ。
 少なくとも、持ち値の181.78よりも高いところで売ったんだから、この売った500本は儲かっている。
 残りは1500本、15億ドルか・・・・・。
 全部売るのかなぁ・・・・・。』



 そんなことを考えながら、ロイター・スクリーンの緑色の文字を見ると、182.00 - 10だったドル・円の表示が、181.45 - 55まで急落して点滅している。

ロイター画面


 東京の荒井のとの電話を切ってから何分も経っていない。

 『大竹さんのドル売りか・・・・・。』

 また、ロイター・スクリーンのドル・円の表示が動き出した。

 181.45 - 55から181.20 - 40になり、181.00 - 50になった。


 もう一段急落したようだ。

 大竹さんが、また売ったのかも知れない。
ロイター画面


 時計をみるとニューヨークは6時25分、東京は朝の7時25分だ。


 ディーリング・ボードの外線のボタンが光った。

 「ハロー、マルワ・トラスト。」

 「もしもし、荒井です。」

 「あぁ、梅田です。」

 「先程は、すみませんでした。
 せっかくお電話を頂いたのに・・・・・。」

 「いやぁ・・・・・。
 で、どう? マーケットは?」

 「今、180円ハチマル・キューマル(180.80 - 90)くらいですね。
 年金が、あれから、また売りました。合計で800本売ってます。
 でも、180円台は買いが出て来ますねぇ・・・・・。」

 「うーん・・・・・、今日のニューヨークも180円のニマル・サンマル(180.20 - 30)が底値だったからなぁ・・・・・。」

 「ところで、梅田さん、年金のドル買いですが、何で20億ドルも買ったんですか?」

 「いやぁ・・・・・。」

 「・・・・・?」

 「いやぁ、荒井。
 俺もよくは知らないんだよ・・・・・。
 ヘッジの買い戻しじゃあないの・・・・・。
 年金とはコンファーム(取引の確認)したんでしょう?
 取引に問題はないよね?」

 「ええ。
 コンファームは終っています。
 取引に問題はありません。
 ただ、何でこんなに買ったのかなぁと思って・・・・・。」

 「・・・・・。」

 余計なことを言って、大竹さんの立場が悪くなっては申し訳ない。

 「あっ!
 梅田さん、誰か大口で買ったみたいですよ。
 今、181.50テイクンです。」

 ロイター・モニターが181.45 - 55で点滅している。荒れ相場だ。

 わずか10分か15分で1円、2円の上下動になってしまう。

 「荒井、だいじょうぶか?
 また、あとで折り返しでもいいよ。」

 「いや、だいじょうぶです。
 ディーラーの人数が揃って来ましたから。」

 ロイターの点滅が181.80 - 90になった。

 また、誰か買ったらしい。
ロイター画面

 「いま、年金から181円ハチマル(181.80)で100本のドル売りのオーダーを見てます。
 あぁ・・・・・、売れましたねぇ。
 今こうして話している間に181円ゴマル(181.50)も100本売ってますから、合計で年金が1000本 売りました。」

 「激しいねぇ・・・・・。」

 「いやぁ、梅田さん・・・・・。
 他の銀行のディーラー達から質問を受けるんですよ・・・・・。
 なんで、ニューヨークでこんなに大量にドル・円を買ったのか・・・・・。
 何か情報があるんじゃないかって・・・・・。」

 「うーん・・・・・。
 だからいま売ってんじゃないの・・・・・。
 買い過ぎちゃったから・・・・・。」

 「・・・・・?」

 「・・・・・。」


 「・・・・・?!

 ははあ・・・・・。

 なるほど・・・・・。
 大竹さんと梅田さんのイタズラですか?」

 「・・・・・。 いや・・・・・。
 俺は止めとけって言ったんだけどね・・・・・。」

 「だいじょうぶですよ、梅田さん・・・・・。
 だいたい想像がつきました。
 オフ・レコにしておきますから。」

 「・・・・・。
 うん・・・・・。
 ありがとう・・・・・。」

 荒井は、さすがに鋭い。ごまかせない。

 荒井とは、つい昨年まで東京のディーリング・ルームで一緒に仕事をしてきた間柄だ。お互いの性格もよくわかっている。
 それに、大竹さんのこともよく知っているから、見抜かれてしまう。

 まさか、こんなに苦しんだ、なんてことは知らないだろうが・・・・・。


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